色覚に関する指導の資料

制作:文部科学省

目次

はじめに-------------------------------2

色覚にかかる指導のあり方
 l.指導の基本-------------------------3
 ll.学習指導のあり方------------------4
 lll.進路指導のあり方----------------11
 lV.相談体制のあり方-----------------13

おわりに------------------------------14

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はじめに

 学校では、児童生徒が安全で健康な学校生活を送ることが求められています。そこで、健康管理面や教育活動上で何らかの配慮を必要とするような状態について、健康診断、保健調査、健康相談などを通じて把握しているところです。
 色覚異常の児童生徒についても、教育活動上の配慮が必要であると考え、これまで、健康診断の際に色覚検査を実施してきました。ちなみに色覚異常の頻度は、報告者によって異なりますが、およそ男子の5%、女子の0.2%といわれています。
 しかし、近年、色覚異常についての理解が進み、色覚検査で異常と判別される児童生徒でも、大半は学校生活に支障はないという認識のもとに、平成15年4月から学校における児童生徒等の定期健康診断の必須項目から色覚検査が削除されることになりました。
 このことは、色覚異常の児童生徒について、教育活動上、まったく配慮が必要ないということを意味するものではありません。教職員は色覚異常について正しく理解し、学習、進路のそれぞれにおいて、適切な指導を行う必要があり、そのため、学校での指導のあり方を示す教職員向けの資料を作成しましたので、各学校において活用してください。

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p.3

色覚にかかる指導のあり方

l.指導の基本

 人間には個人差があって、色の見え方も必ずしも同じではなく、個人差があるといえますが、色覚の検査をしてみると、その結果が大多数の人とは明らかに異なっている人がいます。これらの人が医学的に「色覚異常」と診断されます。以下に色覚異常というのは、そのような医学的診断による異常をいうこととします。
 色覚異常といっても、色がわからないのではありません。異常の程度もそれぞれ異なりますが、日常生活にはほとんど支障のない程度であることが大半です。
 したがって、異常を有する児童生徒を特別視する必要はありませんが、教育活動上で配慮が必要となる場合もあります。
 学校のおける色覚異常に関する配慮として必要なことは、教職員は、教育活動の全般にわたり、色の見分けが困難な児童生徒がいるかもしれないという前提で、色覚異常について正しい知識をもって児童生徒に接するとともに、必要と考えられる場合には個別相談に応じ、適切な対応を心掛けるということです。
 また、色覚に不安を覚える児童生徒及び保護者に対しては、学校医による健康相談の中で、個別に指導・検査を行うなど、希望に応じて適切な対応ができる体制を整えておくことが大切です。その際、児童生徒及び保護者の事前の同意を得るとともにプライバシーに十分に配慮することが必要です。
 教職員の不用意な対応で、児童生徒を傷つけるなどということはあってはなりません。

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ll.学習指導のあり方

 学習指導において、色の判別を要する表示や教材を用いる場合には、誰でも識別しやすい配色で構成し、色以外の情報も加える工夫が必要です。
 つぎに、学習指導の場面において留意すべき事柄について具体例を示しますが、これは、色覚異常の有無にかかわらず、指導法の原則というべきです。

1.板書---------------------

黒板は明るさが均一になるように照明に工夫します。

 黒板に直射日光が当たったり、蛍光灯の光が直接反射して見えにくいことのないように工夫します。

黒板は常にきれいな状態に保ちます。

 板書を消すときはよく消し、チョークの粉で汚れたりして見えにくいことのないようにします。

白と黄のチョークを主体に使います。

 黒板上に赤、緑、青、茶色などの暗い色のチョークを使用すると、見えにくいため、避けるようにします。

あえて、白と黄以外の色チョークを使用する場合には、
アンダーラインや囲みをつけるなどの色以外の情報を加えます。

 色チョークを使用する場合は、太めの文字や線で、大きく、はっきり書き、色名を伝え、白チョークでアンダーラインや囲みをつけたり、色分けをした区域には境界線をはっきり示し、文字や記号を併記するなどの配慮をします。

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p.5

p5図1

 あえて白と黄以外の色チョークを使用する場合は、形状、輪郭線、模様、記号・文字など、色以外の情報を加えて分かりやすくします。

p5図2

 赤、緑、青、茶色等の暗い色のチョークは避け、白と黄を主体に使用します。

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p.6

2.掲示物・スライド・OHP・コンピュータ---------------------

グラフ・図表は、なるべく少ない種類の色で構成し、
形、大きさ、模様、明暗などの色以外の情報を加えます。

 グラフ等で色を用いる場合、文字、記号などを併記するとともに、境界をはっきりさせます。

文字と背景の色には、わかりやすい色の組み合わせを使用し、
明暗のコントラストがはっきりわかるようにします。

 モノクロディスプレイで見てもコントラストがはっきりわかるようならば、それは誰にでもわかる色の組み合せです。

p6図1

 文字と背景の色は、明暗の差をはっきりさせます。

p6図2

 折れ線グラフでは、線は太く、実線と点線または太さなどを使い分け、マーカーはなるべく大きく、色のみでなく形状も変えます。

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p.7

p7図1

 暗い背景に赤、深緑、青の暗い色は避けます。暗い背景を使用する場合は、明るいオレンジ色、明るい青などを使用するとともに、異なった線種を使用し、マーカーは大きく、白で縁取りをします。

p7図2

 円グラフ等では、明るく淡い色の組み合せ(図左)は避け、鮮やかな色を使用し、明るさの異なる色を組合せ(中央)ます。
 さらに模様など色以外の情報を加える(図右)と分かりやすくなります。いずれも境界線を入れ、凡例は各領域に直接示します。

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3.地図---------------------

地図に使用されている色分けは言葉で説明します。

 地図では、さまざまな情報が色で表現されています。色覚異常の児童生徒には、その情報を読みとりにくい場合があることを理解しておきます。
 白地図を色鉛筆で彩色する作業も難しいことがあるかもしれません。
 また、指示通りに塗り分けても、本人にはかえって見づらいものになることもあります。この場合、色の指定は行わずに、本人の意思で色を分けるような指導を行うなどの柔軟な対応が必要です。
 また、斜線などの色以外の情報を加えることも必要です。

4.採点・添削---------------------

細字の赤ペン・ボールペンは避け、
色鉛筆などの太字の朱色を使用します。

 色覚異常の児童生徒は、暗い所では、細字の赤と黒の識別が難しいことがあるので、採点や添削に際しては、色鉛筆などの太字の朱色等を使用します。

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5.実験・実習---------------------

 実験・実習に伴う色について、その色の名前を他の人と共有することは大切なことです。児童生徒にとって見分けにくい色であっても、色の名前を知らされたことにで色の違いを感じ取ることができるようになり、苦手な色を覚えることがあります。
 そこで、実験、観察、実習における色または色の変化は、色の名前を黒板に書き、野外観察などでは色の名前を言って示すようにします。

(1)化学反応

色の変化の程度が判断できるように、
文字で表現するなど工夫します。

 リトマス試験紙、ブロモチモールブルー(BTB)水溶液などの指示薬を用いたときの色変化は、あらかじめ黒板などに明示して、色の判別を補助します。また、ヨウ素反応等の色の変化についても、同様の工夫をします。

(例)

BTB水溶液の変化
酸性では……………黄色
中性では……………緑色
アルカリ性では……青色

(2)観察・表現

植物の観察などでは、
花などの位置と色を具体的に示します。

 色覚異常の程度によっては、赤い花や実などが濃い緑の葉に紛れて見えにくかったり、土の中から発芽する様子が見えにくいことがあります。
 理科の学習などで、花を観察したり、植物の成長や季節による変化、または、花や葉の色の違いを話し合ったり、スケッチするような場合には、花などの位置を具体的に示し、色名を正確に伝えます。

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p.10

6.造形的な表現活動---------------------

図画工作などでは個々の見え方や感じ方を大切にし、
創造的能力を高めるようにします。

 色覚異常では、特定の色彩が異なる色合いに感じられたり、微妙な違いがわからないことがあります。そのため、他の児童生徒と異なる色合いの表現をする場合があります。
 しかし、図画工作、美術の表現は、個々の色彩感覚や好みによって、自己の個性表現がなされることに価値があるものであり、見え方の違いについては、むしろ個々の特性として認め、指導していくことが大切です。
 なお、色覚異常の児童生徒に対して色彩に関する学習を行う際には、色名を正しく伝え、色には微妙な違いがあるということを気づかせることによって、自分に扱いやすい色彩をみつけ出すことが大切であることなどを教えます。

7.教科・科目の評価・評定---------------------

評価・評定は、指導過程全体にわたって総合的に行い、
児童生徒の学習意欲を高めるようにします。

 例えば、図画工作や美術の造形的な表現活動においては、色彩などの個性的な違いにとらわれることなく、造形表現への取組の意欲・態度を含め総合的に評価することが大切です。

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lll.進路指導のあり方

 進路指導の基本は、すべての児童生徒が、自らの生き方を考え、自己の能力や適性を正しく理解し、自分に適した進路を主体的に選択できるようにすることが重要です。加えて、将来への生き方や進路の設計を明確に描くことができるようにすることが大切です。

1.職業選択についての相談---------------------

色覚異常を本人の一つの特性と考え、いたずらに
職業の選択を狭めることがないように指導します。

 同一企業でも多くの職種があり、色を扱う職業といっても多種多様です。個人の特性と職業適性との関係は一概にはいえません。色覚異常にも、かなりの個人差があり、他の要因も複雑に関係し、一つ一つの職業についての個人の向き・不向きを明確にすることはできません。

色覚異常がハンディになりうる職種を希望する場合は、
正確な資料に基づいた情報を提供します。

 色覚検査で異常と判定される者であっても、大半は支障なく業務を行うことが可能であることなどから、平成13年7月に厚生労働省から通達が出され、事業者の色覚異常に対する正しい理解の促進が図られています。
 色覚の異常がハンディになりうる職種としては、印刷、塗装、染色、カラーコーディネーター、野菜や魚の鮮度の判定など微妙な色の判別が要求されるであろう職種が考えられます。
 しかし、人間の感覚に頼っていたものが、機械による測定も可能となったものもあることなどにも留意して、正確な資料に基づいた情報を提供し、職業選択に役立てるようにすることが大切です。

色覚により制限される資格があります。

 現在、職業選択において、色覚により制限される資格もありますが、制限には地域差があり、制限の見直しが行われていることもありますので、希望の職種については、その都度、本人に確認させることが必要です。

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p.12

2.色覚に関する誤解の解消---------------------

 「色覚異常は色がまったくわからない」、「運転免許は取得できない」、「工学部や医学部には進めない」などと思い込んでいる児童生徒もいます。これらは全て誤解です。
 なお、一部の職業に係わる免許の取得については、制限を受ける場合がありますが、一般に運転免許の取得については、信号機の色彩が判別できれば可能です。

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lV.相談体制

1.相談体制の確立--------------------

学校医の健康相談を利用し、希望があれば
学校で色覚検査ができる体制を整えておきます。

 色覚に不安を覚える児童生徒及び保護者への対応として、学校は、保護者から健康相談の希望の有無を聞き(下記「健康相談申込書(例)参照」)、色覚についての相談の希望があれば学校医が健康相談を行います。
 なお、個々に行う健康相談において、児童生徒及び保護者が色覚検査を希望する場合に備え、適切な対応ができる体制を整えておくとともに、検査を実施する場合には、必ず児童生徒及び保護者の同意を得る必要があります。
 また、検査の実施に当たっては、児童生徒のプライバシーを守るため、個別検査が実施できる会場の確保に留意してください。


健康相談申込書(例)

p13図

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2.医師への相談の勧め--------------------

相談を受けた場合は、
医師に相談するよう勧めます。

 色覚に不安をもつ児童生徒や保護者から相談が寄せられた場合は、学校側は誠意をもって対応するとともに、医師に相談するよう勧めます。
 その場合、医師から、日常生活で配慮が必要な事項などについても具体的に説明を受けるなど十分な説明を受けるよう児童生徒や保護者に伝えます。
 なお、学校においては、必要に応じて、医師の診察結果や日常生活で配慮すべき事項についての情報を児童生徒や保護者と共有することが大切です。



おわりに

 人間には個人差があって、色の見え方も必ずしも同じでなく、一人一人異なっているといえますが、大多数の人と色の見え方が明らかに異なっていても日常生活にはほとんど支障のない程度であることが大半です。
 しかしながら、色覚異常を有する児童生徒が学校において安全に健康に学校生活を送るために、適切な指導や教育活動上の配慮は今後も重要です。
 色覚にかかる指導に当たっては、色覚異常を有する児童生徒が、特別視されることなく、また、劣等感を抱かないよう、配慮することが大切です。
 児童生徒が将来に希望をもち、自己の個性・能力の伸長を図ることができるよう指導することが大切です。

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「色覚に関する指導の資料」(文部科学省) 全14ページ

■文部科学省発行の、教職員向けパンフレットを、ページの構成も含め原文のままタイプしました。
■画像は、スキャナで取り込む→見やすいよう画像エディタで修正する→軽量化する、という過程で、実物との間にズレが生じています。(保管が悪くてシワが寄っているのはスミマセン;)
■「悪い例」が極端に見えにくくなってしまったのは、上記の過程でつぶれてしまったためです。(「良い例」も同環境で一緒に切り取っているのですが)
■見出しの装飾は、ページ全体の読みやすさを考えて、現物とやや違いがあります。
■紺地に白文字は現物のまま。太字下線は原文のまま。
■サイトの"地"と区別するために、線で囲んである部分を、文部科学省発行のテキストとしました。(CSS対応ブラウザのみ)
■発行年月日は記載がないので不明ながら、「平成15年4月」前後と思われます。